「えんこう淵と馬鍬

 川の曲がったところに竹薮があって、そこは深い淵になっていた。
 その淵の上の方に家があって、おじいさんが住んでいた。たんぼで代をかくのに使う馬鍬を専門に作っていた。
 田植えが終わったころじゃったが、夜になると、おじいさんの耳元に、
 「俺の家の入り口を開けてくれえ。開けてくれえ。」
と、悲しげな声が聞こえてくるんちゅうんじゃ。
 「おかしいのう。おかしいのう。」
と思ったおじいさんは、ふっと家の下の淵にはえんこうが住んでいて、そのえんこうは金物のものを嫌うという話を思い出したんじゃ。
 そこでおじいさんは急いで川の淵へ行ってみると、どこかの家の馬鍬が置き忘れてあった。
 「これが邪魔になるんか。これをとってやったらええんか。」
と、深い淵に向かって話しかけながら馬鍬を取りのぞいてやったんじゃ。

えんこう淵と馬鍬 その晩は悲しげな声は聞こえてこなかった。
 次の日、おじいさんが目をさますと、家の入り口のかぎに魚がかかっていた。
 それからというもの毎朝、魚がかかっていたというんじゃ。
 そのうちに、魚がぬれとるからとうとう鈎が腐って落ちてしもうたんじゃ。
 そこで、
 「こりゃあ、入り口の鈎を変えにゃいけん。」
ちゅうて、木の鈎をかねに変えたんじゃ。

 鈎を変えた次の朝は、魚が土間にほうってあったんじゃ。
 かねの鈎が恐ろしかったんじゃろう。
 それからというものは魚が来んようになったんじゃ。

さしえ 美濃小学校 S・K
語り手 西迫種一(美濃地)/横田カメノ(向横田)/岡崎宝一(白上)
木村タマヨ(馬谷)/田中栄治(乙吉)/佐々木久一(乙吉)
宅野ナカヨ(多田)/斉藤芳衛(桂平)/石田高(大谷)
福田文治(赤雁)/石橋新一(川登)/波田芳信(大草)
中尾親太郎(美濃地)/西坂綱一(二条)/田原弥三郎(木部)
伏谷実(種)/川本好右衛門(白上)/城市重寿(白上)

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